タクシーに乗る機会というのは、日常の中でそう頻繁ではないかもしれません。
けれど、特別な状況やちょっとした選択が、偶然の出会いや心温まる出来事を運んでくることがあります。
今日は、そんなタクシーでの出来事についてお話ししたいと思います。
忙しい夜、優しさに触れた一瞬
ある冬の夜、仕事が予想以上に長引き終電を逃してしまった私は、仕方なくタクシーを呼びました。
駅前のタクシー乗り場には、寒さに耐えながら待つ数人の人々がいました。私の順番が来て、ドアがスライドして開くと、運転手さんが「寒い中、お待たせしました」と声をかけてくれました。
その言葉に、疲れた心がふっと軽くなるのを感じました。
車内に入ると、ほんのり暖かい空気が迎えてくれました。
仕事の疲れで頭がぼんやりしていた私でしたが、ふと運転手さんと話をする気分になりました。
「この時間、やっぱり忙しいですか？」と何気なく尋ねると、
運転手さんは笑顔で「そうですね。でも、乗ってくれるお客さんがいると、嬉しいものですよ」と答えてくれました。
その一言には、自分の仕事に誇りを持つ姿勢がにじんでいました。
心に残る「ただいま」と「おかえり」
その後、家の近くまでタクシーで向かう間に、運転手さんがふとこんな話をしてくれました。
「先日ね、小さな女の子とお母さんを乗せたんですよ。その女の子が、降りるときに『ただいま』って言ったんです。お母さんが『まだ家じゃないよ』って笑いながら言ったんですが、女の子が続けて『タクシーの中があったかいから、家みたい！』って言ってくれてね。すごく嬉しかったなぁ」
その話を聞いて、私もつい笑顔になりました。
「ただ移動するだけ」の車内空間でも、誰かにとっては安心できる居場所になることがあるのだと知りました。
運転手さんの人柄が、その女の子にそう感じさせたのかもしれません。
自分も与えられる「一瞬の優しさ」
目的地に着く頃、私の中には穏やかな感情が広がっていました。
運転手さんとの短い会話が、冷え切った心を温めてくれたのです。
降り際に、私は思わず「ありがとうございました。気をつけて運転してくださいね」と声をかけました。
すると、運転手さんは笑顔で「こちらこそ、ありがとうございました」と返してくれました。
その日から、タクシーに乗るたびに、ちょっとした会話を交わすようになりました。
それは特別なことではないかもしれませんが、ほんの一瞬でもお互いに優しい気持ちを分かち合えるのは、素晴らしいことだと思うのです。
タクシーが紡ぐ縁
今回の出来事を通して感じたのは、タクシーという移動手段が、ただのサービスではなく、乗客と運転手の間で「縁」を紡ぐ場になるということです。
忙しい日々の中で、ちょっとした会話や心の触れ合いが、私たちの気持ちを豊かにしてくれるのだと気づきました。
この記事を読んでくださった皆さんも、もしタクシーを利用する機会があれば、ぜひ運転手さんとの会話を楽しんでみてください。
もしかすると、あなたの心に残る思い出が生まれるかもしれません。
didimiyu-4著
