驚いた出来事

タクシーのラジオから聞こえた囁き声…友人の不思議な体験

不思議な夜の始まり

友人のA子の話だ。A子はその日、仕事が長引き、普段よりも遅い時間にオフィスを出た。すでに夜の10時を過ぎていて、辺りは静まり返っていた。疲れた体を引きずるようにしてビルを出ると、すぐに近くのタクシー乗り場で空車を拾った。運転手は中年の男性で、疲れた顔をしているA子を一瞥すると、静かにドアを開けて「お乗りください」と促した。

A子は、「△△駅までお願いします」と告げると、タクシーはゆっくりと動き出した。いつもなら、帰宅する安心感でホッとするのだが、その日は何かが違っていた。外は雨が降っており、フロントガラスに滴る雨粒が街灯に反射して、妙に不気味な雰囲気を醸し出していた。運転手は無言でハンドルを握り、A子も疲れのせいで会話する気にはならなかった。

タクシーの中は暖かく、雨音が静かに響く。A子は窓の外の景色をぼんやりと見つめながら、今日一日の出来事を思い返していた。仕事での疲労とストレスが溜まっていたが、それよりもこの夜の静寂が、何か不吉な予感を彼女の心に忍び込ませていた。

 

 

奇妙なラジオ放送

タクシーが走り出してからしばらくして、車内のラジオが突然音を立てた。何気なく耳を傾けていると、どこか不気味な女性の声が流れ始めた。ラジオのチューニングが狂っているのか、途切れ途切れに聞こえてくる声は、何かを囁くような、不自然なものだった。A子はその声に嫌な予感を感じ、思わず運転手の顔を見た。運転手は何事もなかったかのように前方を見つめていたが、その表情には微かな不安が浮かんでいるように見えた。

「このラジオ、変な感じですね」とA子が言うと、運転手は少し驚いたようにこちらを見た。「ああ、そうですね。何か放送が乱れているみたいで」と彼は答えたが、その声には微妙な震えがあった。A子はますます不安になり、何か悪いことが起こりそうな予感に駆られた。

そのラジオの声は、まるで遠くから誰かが囁いているかのようで、言葉の意味をはっきりと捉えることができなかった。それでも、声のトーンには明らかに不吉な何かが含まれているように感じられた。A子はこのラジオの放送が一体何なのか、どこから流れてきているのか、ますます気になってしまった。

 

謎の乗客

その時、タクシーは大きな交差点に差し掛かり、信号待ちで停車した。周りには誰もいないはずだったが、突然、車内の温度が下がったように感じた。A子は思わず背筋を伸ばし、鳥肌が立つのを感じた。その瞬間、ふと後ろを振り返ると、誰も座っていないはずの後部座席に、ぼんやりとした人影が映っているのを見た。慌てて目を凝らしたが、その影は消えてしまい、何もない空間が広がっていた。

「今、後ろに誰かいませんでしたか?」A子が恐る恐る尋ねると、運転手は一瞬固まったように見えたが、すぐに笑顔を作って「いえ、誰もいませんよ。きっと疲れているんでしょう」と答えた。しかし、その笑顔はどこかぎこちなく、A子は不安がさらに増した。

タクシーは再び動き出し、街の明かりが流れ始めた。A子はもう一度後部座席を振り返ったが、そこには何もなかった。ただ、自分が見たものが幻覚だったのか、それとも何か別のものだったのか、どうしても確かめたくて、気が気ではなかった。運転手もまた、何かを隠しているような表情で、時折バックミラーをちらりと見ているのが分かった。

 

帰宅後の不安

A子は、タクシーが自宅の近くに到着するまでの間、ずっと不安を感じていた。運転手がラジオを消してからも、その静寂は逆に不気味で、車内に漂う緊張感は一層強まった。やっとの思いでタクシーが自宅の前に停まると、A子は早く車を降りたくて仕方なかった。

「ありがとうございました」と運転手に告げてタクシーを降りたが、どうしても後部座席を一瞥することを止められなかった。何もないはずのそこに、何か見えない存在が座っているかのような気がしたからだ。しかし、やはり何もいなかった。A子はほっとしたような、でもやはり気味が悪いという複雑な気持ちで、家に向かって歩き始めた。

家に着いても、A子の心の中には奇妙な感覚が残っていた。玄関のドアを閉めると、何か重たい空気が漂っているように感じた。リビングに入って電気をつけると、部屋の中は何も変わらず、いつも通りの光景が広がっていたが、彼女の心の中には一抹の不安が拭いきれなかった。

 

翌日、A子は友人たちに昨夜の出来事を話したが、みんな半信半疑だった。「疲れて幻覚を見たんじゃない?」とか、「ラジオの故障でしょ」とか、友人たちは様々な意見を述べたが、A子の心の中に残ったあの不気味な感覚は、どうしても説明がつかなかった。あの夜のタクシーで見たもの、聞いたものは何だったのか。それは未だに解明されていないが、A子にとっては忘れられない奇妙な体験として、今も心に刻まれている。

その後、A子は何度か同じ道を通ることがあったが、あの夜の出来事が再び起こることはなかった。あの時見た人影が何だったのか、ラジオから聞こえた囁き声が何を意味していたのか、今となっては確かめる術はない。しかし、A子はその体験を通じて、何か不思議な力が働いていたのではないかと感じるようになった。夜のタクシーという狭い空間で起きた出来事が、これほどまでに彼女の心に強く残るとは、誰も予想していなかっただろう。

 

e5mt2ny7s著