優しい運転手さんの話し

作り話のようなお話?私の生活を繋いでくれたタクシーの運転手さん

作り話のようなお話?私の生活を繋いでくれたタクシーの運転手さん

突然ですが皆様は、タクシーって普段利用しますか?

因みに私は、子供の時に両親と乗ったことがあるくらいで、
社会人になってからは料金が高いという理由でほとんど乗ったことはありません。

それに、いざ使いたいと思っても捕まえるのに時間が掛かりますし、
ネットを使ってまで来てもらおうと思ったことはありませんでした。

そんな私でしたが、タクシーに関して今でも忘れられない思い出が1つだけあるのです。

今回は、話を聞くと作り話と思われてしまいそうな少し奇跡のようなお話をご紹介したいと思います。

途方に暮れた自分

作り話のようなお話?私の生活を繋いでくれたタクシーの運転手さん

当時、私は千葉に住んでおり、仕事場は東京駅の近くでした。

生活費を出来るだけ削りたくなかった私は、何と自転車で片道2時間程かけて職場に通っていたことがありました。

あまり褒められたものではありませんが、職場までの通勤代を浮かせて生活の足しにしようと思っていたのです。

あっ、安心してください。

そんな事は、大体2週間ぐらいでやらなくなりました。

前の職場がスカイツリーの近辺だった時に、その時と同じく自転車を使って1時間半ほどかけて通勤していたので、それなら東京駅まで行けるかなと思っただけなのです。

ただ、さすがに2時間となるとやはり帰ることが出来ても疲れたり、寝る時間が少なくなってしまったりと辛く、すぐそんな愚行は止めることになりました。

奇跡が起きたのは、私が電車を使って当時の職場に通うようになったある日の事でした。

仕事が大分遅くなって、終電が無くなってしまったのです。

(歩いて…帰るかな…)

私は、東京駅近くの職場がとても嫌で、心身ともに疲れ切っておりました。
そして、精神的にも疲弊しておりましたので、そんな無茶な考えに至ったのでしょう。

(まぁ、自転車で来たことがあるから、何時間掛かるか分からないけどひたすら歩いてみようか…)

そんな事を思いながら、まるで彷徨う幽霊のように重い体を引きずって歩き始めたのでした。

人生初めて?

作り話のようなお話?私の生活を繋いでくれたタクシーの運転手さん

無茶な計画で職場から千葉の自宅への道のりを歩き始めた私。

さすがに私も途中で正気に戻ったのか歩いてから1時間ほどで歩みを止めました。

うる覚えですが、その時は恐らく12時半くらいだったと思います。

そこで私が思いついたのが、「タクシーを捕まるかな」ということでした。

私は、嫌な予感がしながら財布の中身を見ました。

(いくら掛かるか知らないけど、この手持ちじゃ自宅には着かないだろうな…)

コンビニでお金を下ろすという手もあったかもしれませんが、当時の私には、その発想はありませんでした。

私の目は、今まで目の前の道を見つめていたのに、急に傍の道路をちらほら見始めます。

(やっぱり簡単には見つからないか…)

そう思っていた矢先の事です。

(あっ…)

偶然だとは思いますが、タクシーを一台発見し、何とか捕まえることが出来たのです。

(げっ…そうか…)

疲れた私の目の前に飛び込んできたのは、「深夜料金」の文字でした。

(そうすると、思ったよりもタクシーで距離を稼げないかもしれないなぁ…)

(やっぱりタクシーなんか使うんじゃなかった)

そんな気持ちで車内に自身の身体を入れます。

「お客様どちらまで?」

運転手さんの優しそうな声が私の疲れ切った身体を包みます。

「××駅まで…」

「千葉だね…ちょっと遠いけど分かりました」

そして私は、言葉を付け足します。

「すみません、申し訳ないんですけど、今手持ちが少なくて…。なので、その駅まで車を走らせていただいて、途中で私の手持ちの金額に料金が達したらそこまでで結構です」

悪い事をしているわけではありませんが、私はおどおどしながらそう言いました。

「お客さんいくら持ってます?」

「3000円です」

自身で面倒な事を言っている自覚がありましたので、キュッときつく閉まる胸を手で押さえながら言いました。

すると、運転手さんがとんでもない事を言い出したのです。

「じゃあ…いいですよそれで。途中でその金額で切りますので」

私は、本当に信じられませんでした。
そんな話は、テレビの中のドラマかアニメで十分です。私はすぐさまこう言いました、

「そんなとんでもないです、タダで乗るわけにはいきませんので!!」

私の気持ちの中では、罪を犯すことになるかもしれないという気持ちで一杯でした。

しかし運転手さんは少し笑いながら、

「いやいや大丈夫ですよ。終電でも逃したんでしょう?」

運転手さんは「本当に大丈夫」と言わんばかりの口調で話すので、
私も「いいのかな」と思いつつ、そのご厚意に甘えることにしました。

「本当にすみません…」

私は、緊張の糸が途切れたかのような口調でそう言いました。

車は走り始め、お互い何か喋るわけではありませんが、
私は、本当に車内の心地が良かったのをよく覚えております。

(本当に…本当にありがたい…)

まさにそんな言葉を心の中で呟いておりました。

私はそんな気持ちだったのか、運転手さんこんな事を言ってしまったのです、

「職場が辛くて…」

すると運転手さんは、

「何かあったんですか?」

本当にこちらの話を聞いてくれるような口調で返してくれたので、
私は職場であった愚痴を少しずつ絞り出すように伝えていきました。

「それは、辛かったですね」

「そんな事があったんですね」

「それは、良くないですね」

私の愚痴に運転手さんがそう返してくれるだけで、
私は身体が温まっていくと共に少しずつ苦しさから解放されていきました。

(ずっと乗っていたい)

そんな気持ちになっていた私でしたが、ついに自宅の最寄りの駅に着いてしまいます。

私は、運転手さんに何度もお礼を言いながら、自身のお金を渡しました。

そのタクシーはその場を過ぎ去っていきましたが、
私は、5分程その場で立ちつくしておりました。

(こんな話、人には話せないし、信じてくれないかなぁ)

そんな風に思いながら。

最後に

作り話のようなお話?私の生活を繋いでくれたタクシーの運転手さん

以上ここまで、作り話と思われてしまいそうな少し奇跡のようなお話をご紹介させていただきました。

その後私は、やはり金額面を考えてタクシーに乗ったりすることはありませんでしたが、
先ほどの実体験は今でも忘れられません。

私もいつか困っている人がいたら、何かの形で運転手さんのようにしてあげられたらと思いながら、日々を過ごしています。

diary.st著